近江商人の精神を現代に活かす – 高田善右衛門六代目が語る商いの知恵
江戸時代から続く商人の知恵は、今の時代にも通じるものがある。東京・麹町で「Zen Cafe Marina」を営む高田滋氏が、近江商人の精神を現代にどう生かしているのか、その思いを語ります。
近江商人とは?
近江商人とは、江戸時代から日本各地で活躍した商人のこと。彼らは故郷・近江(現在の滋賀県)を離れ、さまざまな地域で商売を展開しました。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の考え方を大切にしながら、ただ利益を追うのではなく、周りの人々も幸せにする商売を目指していました。
高田家の商いの歴史
高田滋さんの家系も、代々近江商人として活躍してきました。
- 1代目:高田善右衛門の精神
初代・高田善右衛門は、たった5両(現在の価値で約30万円程度)の元手から商売を始めました。売ったのは、蝋燭の灯芯や編笠といった、当時の人々の生活に欠かせない商品。「正直に働き、倹約しながら地道に努力する」ことで、10年後には京都に自分の店を持つまでになりました。この精神は「自彊してやまず(自ら弛まず、努力を続ける)」という家訓として、今も高田家に受け継がれています。
- 3代目:北海道・室蘭へ進出
3代目は北海道・室蘭へと商売を広げ、呉服屋を営みました。五個荘の若者たちを丁稚奉公として受け入れ、商売の基礎を学ばせました。そして、優秀な奉公人には「のれん分け」を行い、独立を支援する仕組みを築きました。この仕組みは、まさに現代のフランチャイズの先駆けともいえるもので、商売を通じた人材育成にも力を入れていました。
- 4代目:東京へ進出、日本初のピンポンボール会社を設立
4代目は大正時代に東京へ進出し、日本初のピンポンボール製造会社「AJPA(オールジャパンピンポンアソシエーション)」を設立。東京・麹町に工場を構えました。現在、高田さんが経営する「Zen Cafe Marina」は、その工場跡地に建てられています。
近江商人の精神を今に伝える
高田滋さんは、近江商人の精神を現代に活かすため、「Zen Cafe Marina」を運営しています。このカフェでは、発酵食品を中心とした健康的な食事を提供し、人々の健やかな暮らしを支えることを目指しています。
また、「商売は利益を追うだけでなく、社会全体に貢献すべきである」という近江商人の哲学を大切にし、それを実践する場ともなっています。
さらに、高田さんは近江商人の歴史や教えを次世代に伝える活動にも力を入れ、その価値を広めています。
近江商人の知恵が現代にも通じる理由
高田さんは、「近江商人の知恵は、今のビジネスにも役立つ」と語ります。
- フランチャイズの先駆け:丁稚奉公制度は、商売を学び独立のチャンスを得る仕組みで、現代のフランチャイズにも通じています。
- 単身赴任の先駆け:近江商人は家族と離れ、全国で商売をし成功すると故郷へ戻りました。この働き方は、現代の単身赴任にも似ています。
- 「三方よし」の精神:商売は売り手・買い手だけでなく、社会全体にとってもよいものであるべきで、これはSDGsの考え方にも通じます。
- 「自立自営」と「自彊してやまず」:自分の力で生計を立てる「自立自営」の精神と、努力を続ける「自彊してやまず」の考え方が成功の鍵となります。
まとめ
近江商人の精神は、江戸時代から現代まで、形を変えながらも脈々と受け継がれています。高田滋さんは、その精神を「Zen Cafe Marina」の経営や歴史の伝承活動を通じて次世代に伝えています。
商売はただ利益を追うものではなく、人々や社会を豊かにするものである—その考え方は、これからの時代にもますます重要になっていくでしょう。
ゲストプロフィール
高田 滋(たかだ しげる)氏
近江商人・初代高田善右衛門の六代目。滋賀県五個荘出身。東京・麹町で「Zen Cafe Marina」を経営し、発酵食品を中心とした健康的な食事を提供。また、近江商人の歴史を伝える活動にも尽力している。
関連情報
※写真:滋賀・東近江市 近江鉄道 五箇荘駅 駅舎
