狛犬と古代繊維から紐解く日本の文化遺産

2025/02/07(金)

狛犬と聞くと、神社の入り口にいる一対の像を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、その表情や形態には驚くほどの多様性があり、それぞれの地域や石工の個性が色濃く反映されています。また、日本の繊維文化の歴史をたどると、絹や木綿が広まる前の時代には、山野の植物を活用した独自の布作りが行われていました。

今回は、狛犬研究の第一人者であり、古代日本の繊維文化にも精通する明治大学獅子狛犬研究所の中森あゆみ研究員に、狛犬の魅力と古代繊維文化の奥深さについて伺いました。

狛犬の多様性とその役割

狛犬は神社の入り口などに設置され、神聖な領域を守る役割を担っています。中森さんによると、狛犬の表情や姿は地域ごとに異なり、石工の個性が表れるのが特徴だそうです。

「狛犬には、威嚇するものから、どこか愛らしいものまで、実に多彩な表情があります。同じものは二つとなく、それぞれの地域や時代背景を映し出しています。」(中森さん)

また、狛犬文化のルーツはエジプトにまで遡るといいます。エジプトから中国を経て日本に伝わり、日本では神社の守護者として定着しました。一方で、韓国では日本からの影響を受けて広まるなど、東アジア各地で異なる発展を遂げています。

絹や木綿以前の日本の繊維文化

日本では、木綿や絹が普及する以前、山野の植物から繊維を採り、衣服を作っていました。代表的な素材として、楮(こうぞ)、藤、科(しな)、沖縄の芭蕉、北海道の於瓢(おひょう)などが挙げられます。

中でも、楮から作られる「太布(たふ)」は、丈夫で白く美しい布として珍重されました。やがて大陸から麻や苧麻(ちょま)が伝わり、山に採りに行かず畑で栽培ができることから広く普及しました。

太布(たふ)の製作工程

太布の製作は非常に手間のかかる作業です。

  • 楮の樹皮を剥く
  • 小槌で叩いて外皮を除去
  • 踏んで繊維を柔らかくする
  • 川水に漬けて凍らせ、さらに柔らかくする
  • 繊維を細く裂いて撚り合わせる

このような工程を経て、太布は丈夫で美しい布に仕上がります。しかし、製作に時間と労力がかかるため、次第に和紙を布のように加工する「紙布(しふ)」へと移行していきました。紙布は、和紙のような手触りと白さが特徴で、「白妙(しろたえ)」と称されるほど美しい布です。

まとめ

狛犬と古代繊維文化という、一見異なるテーマには、日本独自の文化が凝縮されています。狛犬は地域ごとの個性を反映しながら日本各地に根付き、また、古代の繊維文化は自然の恵みを活かした持続可能な技術として発展してきました。

現代では、これらの技術や文化は失われつつありますが、狛犬の造形美や太布の製作技術を知ることで、私たちが受け継ぐべき貴重な文化遺産の存在に気付かされます。中森さんは、こうした文化の継承が次世代にとって重要であると強調しています。

ゲストプロフィール

中森あゆみさん

明治大学 獅子・狛犬研究所 客員研究員。全国各地の狛犬の調査研究を行い、その多様な表情や地域性について研究を進めている。また、古代日本の繊維文化についても造詣が深く、特に絹・木綿以前の繊維素材や織物技術の研究にも取り組んでいる。