【オンライン浪漫紀行】紅花を使った北前料理と北前船の運んだ食文化
北前船の歴史を料理でつなぐ
かつて北前船によって運ばれた山形県の特産品「最上紅(もがみべに)」。しかし、生産者の減少により、その伝統は失われつつあります。
そんな中、料理を通じて紅花の魅力を伝え、北前船の食文化を未来へとつなげようとする料理人がいます。今回は、紅花を活かした創作料理を考案し、地域の食文化を守りながら発信している、魚匠ダイニング沖海月 料理長・須田剛史さんにお話を伺いました。
山形県の伝統「最上紅」
山形県の紅花「最上紅(もがみべに)」は、室町時代にはすでに山形での栽培が始まり、江戸時代には北前船によって大阪や京都へ運ばれ、その品質の高さから広く知られるようになりました。特に高級な染料や口紅の原料として重宝され、京文化の発展にも大きく貢献しました。しかし、時代の変遷とともに生産者が減少し、現在ではその存続が危ぶまれています。
紅花を活かした料理の工夫
須田さん(魚匠ダイニング沖海月 料理長)は、紅花の魅力を最大限に引き出した料理を提供しています。紅花をお酢に入れて発色させたり、薄焼き玉子で酢飯を巻いた「紅花寿司」を考案したりと、さまざまな工夫を凝らしています。
「風味が変わるだけでなく、健康効果も期待できる紅花を使い、料理を通じて伝統を次世代に繋ぎたい」と須田さんは語ります。
2024年は9月から10月にかけて「北前船紅花御膳」を提供し、今後も定番メニューとして紅花の魅力を伝え続けたいと考えています。
北前料理の復活と地域活性化
須田さんは、2019年に加茂水族館に隣接する加茂港が日本遺産に追加認定されたことをきっかけに、研究者や生産者と協力しながら、北前料理の創作に取り組むようになりました。
「紅花は、もともと染料として使われていましたが、それを料理に活かすことで新しい価値を生み出しています。生産者の加藤さんとともに、加茂水族館で紅花を活用した料理の提供を始めました。」
世界的に注目されるクラゲ水族館(加茂水族館)での取り組みを通じ、北前料理も世界へ発信していきたいと考えています。
紅花の若菜を使った健康的な料理
紅花の若菜には抗酸化作用があり、アンチエイジング効果も期待できます。須田さんは、この紅花の若菜をおひたしや胡麻和えとして提供し、その独特の風味を楽しめる料理に仕上げています。
「ほうれん草よりシャキッとした食感があり、絞ると赤い色素が出てくるのが特徴です。5月頃に生産者さんから仕入れ、すべてのおひたしや胡麻和えに紅花の若菜を使っています。」
春の北前船御膳と伝統料理
春の北前船御膳では、地元の旬の食材を使った料理が並びます。
- 孟宗汁(もうそうじる) … 孟宗竹の筍を使ったお椀物
- 鱧(はも)の天ぷら
- ニシンの煮炊き物や昆布、珍味
さらに、北前船の帆に風がはらんだ形を模した器に料理を盛り付けるなど、見た目にもこだわっています。「北前船の歴史と文化を学びながら楽しめる御膳にしたい」という須田さんの想いが込められています。
新聞にも掲載された「北前船紅花御膳」
須田さんの取り組みは新聞にも取り上げられ、紅花の魅力を広くアピールする「北前船紅花御膳」が紹介されました。紅花寿司や紅花を散りばめたくずきりなど、紅花を取り入れた料理が注目を集めています。
「紅花の生産者との交流を活発にし、若い世代にこの伝統を繋げていきたい」と須田さんは語ります。
山形県の四つの日本遺産
須田さんは、山形県にある四つの日本遺産を大切にし、地域の魅力を伝える活動にも力を入れています。
- 出羽三山(でわさんざん) … 修験道の聖地として知られ、山岳信仰の中心地。
- 北前船の寄港地(酒田市、鶴岡市) … 日本海交易の要所として栄え、日和山公園には北前船の模型が展示されている。
- 鶴岡のサムライシルク … 庄内藩の武士たちが養蚕を営み、高品質な絹織物を生産した歴史を持つ。
- 「山寺と紅花」文化圏(山形市含む4市3町) … 立石寺(山寺)と紅花の歴史が息づく地域で、紅花交易と文化交流が盛んだった。
「これらの文化を守りながら、山形県を盛り上げていきたい」と須田さんは話します。
未来へ繋ぐ北前船の食文化
須田さんは、「お料理の中に浪漫を取り込みたい」と語ります。北前船が運んだ食材や文化を現代に蘇らせ、新しい形で伝統を次世代へと繋げていくことを目指しています。
「紅花や郷土料理を若い世代に伝えていくことで、地域の食文化がさらに発展していくと信じています。」
北前船の歴史を料理にのせ、未来へと繋げる須田さんの挑戦は、これからも続いていきます。
ゲストプロフィール
須田剛史(すだ たけし)さん
魚匠ダイニング沖海月 料理長。北前料理専門家。紅花を活かした料理や、北前船の食文化を現代に蘇らせる活動に尽力している。
