北前船の歴史を未来へ ー 船主5代目が語る海運の歩み

2025/03/14(金)

江戸時代の海運を支えた北前船

「北前船」は、江戸時代から明治時代にかけて日本海を舞台に活躍した商船です。特に西回り航路と呼ばれる航路を通じ、北海道や東北の物資を大阪へ運び、帰路では関西の品々を積んで各地へ届けました。

今回は、兵庫県香美町(かみちょう)在住の宮下仙之助さんにお話を伺いました。宮下家は代々北前船の船主を務め、その歴史を受け継いでいます。

香美町と北前船の関わり

香美町は兵庫県北部に位置し、日本海に面した町です。東は京都府、西は鳥取県に接しており、古くから海運業が盛んでした。

この町が北前船と深く関わるようになったのは、1672年に江戸幕府の技術者・河村瑞賢(かわむら ずいけん)が西回り航路を開いたことがきっかけでした。その後、香美町は航路の重要な寄港地の一つとして発展していきました。

宮下家と北前船の歴史

宮下家の初代は天保元年(1830年)に生まれ、7歳のころから船乗りとして働き、30歳のときに自らの船を持つようになりました。最初は300石積みの船から始まり、最盛期には600~700石積みの大型船を2~3隻所有し、大阪まで物資を運んでいました。

2代目もこの事業を継ぎ、明治44年(1911年)まで北前船の経営を続けました。しかし、鉄道の発展や時代の変化とともに、北前船の役割は次第に縮小していきました。

「香美町立ジオパークと海の文化館」と宮下家の資料

現在、香美町には「香美町立ジオパークと海の文化館」という施設があります。この施設では、北前船の模型や漁具、魚の剥製などが展示され、地域の歴史を学ぶ場として活用されています。

宮下家には、船箪笥や往来手形、羅針盤、遠眼鏡といった貴重な資料が残されており、一部は同館で公開されています。

宮下さんの研究活動

宮下さんは現在、全国の北前船寄港地を訪れ、古文書や海運資料を調査しています。新潟、福井、宮津、鳥取など、各地の研究者と協力しながら、当時の貿易の実態を明らかにするための活動を続けています。

最近では、北海道の江差港で発見された古文書に、宮下家の取引記録が残されていたことがわかりました。これは、北前船が果たしていた役割をより深く理解するための貴重な資料となっています。

また、但馬地方の柴山港には、「越前屋客船帳」という記録が残っています。これは1764年から明治30年代までの約130年間にわたる船の入港記録で、まだ詳しく分析されていません。宮下さんは、この資料を3年ほどかけて解読し、北前船の歴史のさらなる解明を目指しています。

北前船の歴史を未来へ

宮下さんの研究活動は、家族の歴史をたどることにとどまらず、日本海の海運史を解き明かし、次世代へ伝える重要な取り組みとなっています。

北前船はかつて日本各地を結び、経済や文化の発展に貢献しました。その歴史を学ぶことで、当時の人々の暮らしや物流の流れを知ることができます。

「香美町立ジオパークと海の文化館」を訪れ、北前船の歴史に触れてみてはいかがでしょうか。

ゲストプロフィール

宮下仙之助(みやした せんのすけ)さん

兵庫県香美町在住。北前船船主の家系5代目。江戸時代から続く宮下家の歴史を継承しながら、北前船の研究に取り組む。全国の寄港地の史料調査や教育機関との連携を通じて、北前船の歴史と文化の継承に尽力。「香美町立ジオパークと海の文化館」に家伝の北前船関連資料を提供するなど、地域の歴史教育にも貢献している。